ねえ、聞いてくれる?
長崎の、鍋冠山公園の話なんだけど。
あそこ、夜景が綺麗でしょう。市内の灯りが斜面の下にずらっと広がって、港の水面がきらきら光って。カップルとか、観光で来た人とか、みんな展望台に並んで写真を撮るじゃない。そういう場所なの。だから余計に、この話を聞いたとき……なんか、嫌な感じがしたんだよね。
友達から聞いた話なんだけど、確かじゃないかもしれない。でも、ちょっと聞いてほしくて。
……何年か前に、あの公園のあたりで、女性を狙った事件が続いた時期があったらしいの。何件か続いて、そのうちの一件が、ちょっと、ひどかったって。遺体が見つかったのが、展望台の下にある公衆トイレだったって聞いた。夜景を見に来た誰かが、最後に入ったのが、あのトイレだったんだって。
それからなんだって。変な話が出るようになったのは。
ある男の子の話。地元の子で、仲間と肝試しに鍋冠山に行ったらしいの。夜中の十二時を過ぎたくらい。展望台には誰もいなくて、風が少し吹いていて、下の街の灯りだけがすごく綺麗に見えたって。その子が展望台の柵にもたれて夜景を眺めていたとき、ふと、横に誰かが立った気がしたんだって。
人の気配、ってわかるじゃない。誰かがすぐそばに来たときの、空気の動き。その子も「あ、友達が来たのかな」って思って、横を向いたんだって。
そこに、女の人が立ってたって。
白っぽい服で、長い黒髪で、柵に手をかけて、下の夜景をじっと見ていたって。ぼんやりとした灯りの中で、輪郭がはっきり見えたって言うの。おかしいとは思ったんだけど、観光客かなって思い直して、その子はしばらくそのままでいたんだって。
で、何秒か経って、もう一度横を見たら……
その女の人の足が、なかったって。
柵の向こう、地面から少し浮いた位置に、ただそのまま立っていたって。夜景を見ながら、微動だにしないで。
その子、叫び声も出なかったって言ってた。ただ足が震えて、何も考えられなくて、気づいたら走ってたって。
後で仲間に話したら、「お前が展望台に向かってったとき、俺ら後ろで待ってたけど、お前の横に最初から誰かいたぞ」って言われたって。仲間の目にも見えてたらしいの。ただ、誰も声をかけられなかったって。
……ひとつ、もっと嫌なことがあってね。
その子、帰り際に公衆トイレの前を通ったんだって。怖かったから走って通り過ぎようとしたら、中から音がしたって。水が流れる音でも、風の音でもなくて、もっと小さな、くぐもった音。
何かを、叩くような音、だったって。
内側から。
ゆっくりと、規則正しく。
その子はそれ以来、夜景が怖くて見られなくなったって言ってた。きれいな光を見るたびに、あの足のない女の人のことを思い出すって。柵に手をかけて、夜景を、ずっとずっと眺めてる姿を。
……あの人、何を見てたんだろうね。
自分がいなくなった後も、続いていく街の灯りを、どんな気持ちで見ていたんだろう。
確かめに行く気には、ちょっとなれないんだけど。