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怪異・クリーチャー ▰▰▰▰▱

船幽霊

ふなゆうれい

柄杓を差し出す手は、底が抜けていなければ、あなたの船を満たす。

水難で逝った者たちは、海の底で仲間を待ち続けているという。時化の夜、あるいは盆の十六日の夜明け前、霧に溶けた水平線の向こうから、帆も操り手もない船影が近づいてくる。それが船幽霊の最初の兆しだ。

彼らは柄杓を手に現れ、海水を汲んで船底へ注ぎ込もうとする。古くからの知恵では、底を抜いた柄杓をあらかじめ用意しておけばよいという——いくら水を汲んでも、注がれる前にすべて零れ落ちるから。握り飯を海へ投げ入れることも、その飢えた霊たちを一時なだめる手立てとして語り継がれている。

姿は一様ではない。船そのものが亡霊と化した幽霊船として現れることもあれば、乗組員の首を締め上げる見えない重さとして、あるいは沖合に灯るかがり火の幻として現れることもある。その火に引き寄せられた船頭が、気づいたときには暗礁の上にいたという話は、各地の漁師の間で今も囁かれる。

霧の夜に目の前へ突如現れる断崖や帆船の影——慌てて舵を切れば座礁し、転覆する。だが真っ直ぐ突き進めば、それは音もなく消える。船幽霊が試しているのは、恐怖か、それとも諦念か。

山口・佐賀ではアヤカシ、地方によっては亡者船やボウコとも呼ばれ、海なき土地の河や沼にも出没する記録が残る。『絵本百物語』は西海に現れる船幽霊を壇ノ浦に沈んだ平家の死霊と記した。怨嗟の深さがそのまま海の深さになったかのように、彼らは今も底から手を伸ばしているらしい。

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出典: 船幽霊 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.