
怪異・クリーチャー JP ▰▰▰▱▱
一反木綿
いったんもめん
夕暮れの空を、白い布がひらりと舞う——気づいたときには、もう首に巻きついている。
鹿児島県肝属郡の薄暮に生まれた怪異。約一反分の木綿布に相当する白い帯状の何かが、音もなく宙を泳ぎ、人へと向かってくる。地元では「いったんもんめ」とも囁かれ、その呼び名だけで子供の足を家へと向かわせた。
襲い方は静かで、それゆえに恐ろしい。首へと絡みつき、あるいは顔を覆い、呼吸の隙間を奪う。くるくると螺旋を描きながら高速で接近し、気づけば標的ごと夜空へと消えるとも伝わる。ある男が脇差で布を断ち切ったとき、手の平に残ったのは乾きかけた血だけだったという。
肝付の地には、この怪が好んで現れるとされる神社がある。子供たちはその鳥居の前に立つと、本能的に走り出した——群れの最後尾が狙われると信じていたから。誰もが先頭でなければならない、その恐怖が足を速くした。
『百鬼夜行絵巻』には手足の生えた布状の存在が描かれており、民俗学者・小松和彦はこれを一反木綿の遠い祖先と見なす。土葬の弔いに用いた木綿の旗が風に攫われ、夕暮れの野を漂う光景——死の布が空を飛ぶという記憶は、そこから染み出たのかもしれない。
噂は今も途絶えない。新幹線と並走する白い影、六甲山上空に浮かんだ三十メートルの布状飛行体、東京の住宅街で犬を連れた女性が追いかけた何か。撮影所の空に長い白布を見た俳優の証言もある。伝承地を遠く離れても、一反木綿に似た何かは目撃され続けている——あるいは、布はもとより土地を選ばないのかもしれない。
薄暮・白・静寂・窒息・浮遊 妖怪鹿児島布状怪異飛行窒息近代目撃談柳田國男百鬼夜行
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見る 出典: 一反木綿 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.