
怪異・クリーチャー JP ▰▰▰▰▱
濡女
ぬれおんな
海辺で赤子を差し出す女の声と、牛鬼の声は、ひとつだった。
水辺に現れる、髪の絶えて乾かぬ女。九州の磯女と同族とも囁かれ、川にも海にも、雨の夜にも波打ち際にも、その濡れた輪郭は目撃されてきた。江戸の絵師たちは彼女を蛇の胴を持つ者として描き残したが、その姿を直接記した古い文書は見当たらない——ただ、尻尾が三町先まで届いたという噂だけが、文久の頃から漂い続けている。
島根の石見では、濡女は単独では動かないと伝わる。彼女が海辺に現れるとき、必ず赤子を腕に抱いている。道行く者にその子を預けて波の中へ消えると、間もなく牛鬼が姿を現す。
赤子を抱いた者は逃げようとする。しかし腕の中の子は、気づけば石のように重く、離れない。投げようとしても、落ちない。そのまま牛鬼に喰い殺されると言う。石見の古老は言い伝えた——手袋をはめて抱き、逃げる際は手袋ごと放り捨てよ、と。
大田の伝承はさらに不気味な真実を示す。辛くも牛鬼から逃げ延びた男の耳に、背後から声が届いた。「残念だ、残念だ」——その声は、赤子を預けてきた濡女の声と、寸分違わなかった。濡女と牛鬼は別の存在なのか、それともひとつの何かが形を変えているのか。答えは、今も海の底に沈んでいる。
湿潤・罠・二重の正体・波音 水妖蛇体牛鬼島根九州江戸怪談赤子の罠磯女
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見る 出典: 濡女 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.