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怪異・クリーチャー ▰▰▰▱▱

犬神

いぬがみ

飢えた犬の怨念は、飼い主の代を超えて家に宿る。

西日本の山間に、今もひそかに語られる憑き物がある。四国の北東から高知の奥地、大分の山郷、島根の海沿いの集落——狐の届かぬ土地に、かわりに根を張った霊の系譜。宮崎や熊本の球磨の者は「インガメ」と呼び、種子島では「イリガミ」と舌をなまらせる。名は違えど、その忌まわしい本質は変わらない。

その起源とされる呪法は、平安の世にはすでに禁じられていた蠱術に連なる。飢えに狂った犬を地に埋め、あるいは柱に繋ぎ、目の前に食物を置いて餓死の寸前まで追い詰める。断末魔の瞬間に首を落とすと、頭部は宙を飛び、ついに食物に食らいつくという。その憤怒と渇望を骨ごと祀り上げたものが、犬神の最も古い形とされている。

しかし実際に語られる犬神の姿は、犬とはほど遠い。やや大きめのネズミほどの体躯に斑の体毛、尾の先は二又に分かれ、目は潰れたように見えない。モグラの近縁に似た盲目の獣が、一列をなして闇の中を進む——その光景を目撃したと言う者が、近年まで絶えなかった。一家に七十五匹が棲みつくと伝える土地もある。

犬神持ちの家系とされた者たちは、特別な富と引き換えに、深い忌避を受けた。婚姻を断られ、村の外縁へと追いやられる。憑かれた人間は激しく取り乱し、吠えるように叫ぶとも言う。犬神は主の願望を叶えながら、同時に主の家を縛り続ける——世代を越えて離れることなく。

大分の速見郡では、巫女が実際に犬の首を落とし、腐敗した頭部に湧いた蛆を乾かして「犬神」と称し、銭と引き換えに売り渡した記録が残る。それを信じて買い求めた者もいたという。呪法と信仰と恐怖が混じり合う場所に、犬神は今も静かに潜んでいる。

湿った山里の闇、骨の匂い、世代を超える呪縛 憑き物西日本四国蠱術犬霊家系の呪い妖怪
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出典: 犬神 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.