
怪異・クリーチャー JP ▰▰▰▰▰
玉藻前/殺生石
たまものまえ/せっしょうせき
その微笑みの奥に、三千年の嘘が眠っている。
平安の末、鳥羽上皇の御所に忽然と現れた女官がいた。名を玉藻前という。容姿は月を映す水面のごとく、問われればいかなる学問にも澱みなく答えた。人々は彼女を天人の生まれ変わりと囁いたが、その美しさには影が一枚、余分に落ちているように見えた。
上皇はやがて根拠のない倦怠に蝕まれ、床から起き上がれぬ日が続いた。典薬寮の医師たちは首を傾げるばかり。真実を照らしたのは陰陽師・安倍泰成の術であった。彼が真言を唱えた瞬間、玉藻前の衣の裾から九本の尾が滲み出るように現れ、宮中に妖気の残り香だけを置いて、狐は夜の闇に溶けた。
那須野の原に逃れた九尾の狐は、霧と轟音を武器に討伐軍を翻弄し続けた。しかし天命は覆せない。三浦介・上総介の矢が放たれ、ついに狐は那須の大地に斃れた。だが骸は石へと変じ、近づく者すべてに毒気を吹きかけた。これが殺生石である。
伝承によれば、この九尾の狐の魂は玉藻前が初めてではない。遠く殷の時代には妲己として、周の世には褒姒として、天竺では斑足王の妃として、幾度も王権に寄り添い、幾度も国を傾けてきたという。九つの尾は九つの時代に刻んだ業の数だ、と語る者もいる。
那須の殺生石は後に玄翁和尚によって打ち砕かれ、その破片は各地へ飛散したとされる。石は砕けても、毒は散った。噂はいまも那須の風の中を漂い、霧が濃い夜には原野の奥から、九つの尾が揺れる気配がすると言われている。
妖艶・腐敗の甘さ・千年の欺瞞・石の冷気 九尾の狐平安時代殺生石那須野鳥羽上皇安倍泰成変化三国妖狐
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見る 出典: 玉藻前 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.