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怪異・クリーチャー ▰▰▱▱▱

百々目鬼

どどめき

腕に貼りついた銭が、やがて瞬きをはじめた。

鳥山石燕が『今昔画図続百鬼』に筆をとどめた女の姿——両の腕に無数の目をびっしりと生やし、静かにこちらを見返してくる。その目はどれも、かつて盗んだ銅銭の丸い穴に宿った「鳥目の精」だと伝えられる。

鳥目とは銭のことだ。銅銭の中央の穴が鳥の目に似ていることからそう呼ばれた。手癖の悪い女が盗み重ねるうちに、腕の皮膚に銭が貼りつき、それが眼球へと変じたのだという。石燕は出典として『函関外史』なる奇書の名を記したが、その書物の実在を確かめた者はいまだ一人もいない。

「函関」の傍らには「はこねからさき」という訓が添えられている——つまり箱根の関所の外、江戸の届かぬ場所で起きた話、という含みだ。石燕自身が出典ごと作り上げた可能性を、研究者たちはさらりと認めている。妖怪の典拠が妖怪めいているのは、あるいは意図的な遊びであったのかもしれない。

「百目木」「百目鬼」「百目貫」——そう書いて「どどめき」と読む地名が、日本の各地に今も点在する。地名と銭の異称と、腕に目の生えた女と。石燕はそれらを一本の線でつないで、存在しなかったはずの妖怪を紙の上に召喚した。

昭和以降の妖怪図鑑は彼女を「とどめき」と呼びならわすことも多く、腕の目は盗んだ銭が変化したものだという解釈が広まった。噂が噂を呼び、創られた怪異は少しずつ姿を変えながら今日も書棚の隅に潜んでいる。

薄暗い好奇心、静かな視線、江戸の洒落と怖気 江戸妖怪鳥山石燕百鬼夜行女の妖怪創作妖怪地名起源
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出典: 百々目鬼 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.