← 怪異図鑑
怪異・クリーチャー ▰▰▰▰▱

飛縁魔

ひのえんま

菩薩の顔をして、男の命を静かに燃やし尽くす。

江戸の奇談集『絵本百物語』に記された存在。もとは仏教の戒めの言葉として生まれ、やがて形を得た。外見は慈悲深い菩薩そのものでありながら、その本質は夜叉——この矛盾こそが彼女の最も恐ろしい武器である。

名に宿る意味は幾重にも重なる。「火炎地獄の裁判官」、「空を翔る魔の縁」、さらには「飛び火する炎の魔」。いずれの解釈も、近づく者を焼き尽くすという一点で一致している。夏の桀王を傾けた妺喜、殷の紂王を堕落させた妲己、周を滅ぼした褒姒——古の王朝を灰にした女たちが、彼女の先例として囁かれる。

丙午の年に生まれた女は男を早死にさせるという古い言い伝えが、この妖怪の輪郭を形作ったともいう。八百屋お七が丙午生まれであり、江戸の夜を焼いた大火と結びついていることも、偶然とは思えないと語る者がいる。

昭和以降の記録では、吸血鬼に似た側面が加えられた——血と精気を静かに吸い取り、男を内側から空洞にしていくと。しかし本来の恐怖はもっと緩やかなものだ。気づいたときには身も家も命も、すでに手元にない。

今も彼女の噂は残る。あまりにも美しく、あまりにも親切な女に出会ったとき、その背後に炎の揺らぎを感じたなら——それはおそらく、すでに縁が結ばれた後のことである。

妖艶・静かな破滅・業火・甘い罠 江戸時代絵本百物語女妖怪丙午仏教起源魅了精気吸収九尾の狐との関連
Kaidan 怪異図鑑 噂の主たちを一覧で。
見る

出典: 飛縁魔 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.