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怪異・クリーチャー ▰▰▱▱▱

ぬらりひょん(滑瓢)

ぬらりひょん

名前だけが先に来る——姿は、いつも指の間からすり抜けていく。

江戸の絵師たちは、申し合わせたかのように解説を書かなかった。『百怪図巻』にも、鳥山石燕の筆にも、禿げ頭の老人が着物か袈裟を纏って描かれるばかりで、その本性を語る一文が存在しない。絵だけが残り、言葉だけが消えた——まるでそれが、この怪の望んだことであるかのように。

名の由来については諸説が漂う。「ぬらり」は滑らかに、「ひょん」は思いがけなく。つかもうとした瞬間に形を失い、忘れた頃にまた浮かび上がる性質を、そのまま音に写したのだという。瓢箪鯰——掴まえようのない化物の比喩として、この名は使われてきた。

瀬戸内の海には、水面を漂う人頭ほどの球が目撃されてきた。網を入れれば沈み、引けば浮く。からかうように繰り返すその動きを、漁師たちは「ぬらり、ひょん」と呼んだ。大型の水母か章魚かとも言われるが、確かめた者はいない。陸の老人と海の球体が同じ名を持つことの理由は、誰も解いていない。

「妖怪の総大将」という肩書きは後の世が貼り付けた虚飾であり、古い文献にその証拠はない。しかしその誤伝が広まり、今や多くの者がそう信じている——これもまた、つかみどころのない何かが仕組んだことかもしれない、と囁く者がいる。

噂は今も細く続いている。誰かの家に見知らぬ老人が上がり込み、茶を飲んで消えた、と。慌てて追えば影もなく、あったのは畳に残る微かな重みだけ。掴まえようとするほど、輪郭は薄れていく。

曖昧・老獪・滑脱・霧中・静かな不気味さ 妖怪江戸時代絵巻物海怪百鬼夜行つかみどころのない存在岡山県秋田県
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出典: ぬらりひょん — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.