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怪異・クリーチャー ▰▰▱▱▱

赤い部屋

あかいへや

告白は終わった——だが、あの部屋はまだ誰かを待っている。

大正の薄闇に生まれた、ある猟奇クラブの噂がある。会員たちは灯の落ちた密室に集い、互いの秘密を差し出す儀式を繰り返した。その夜、ひとりの男が静かに立ち上がり、自らの「遊戯」を語り始めたという。

男が語るのは、殺人でありながら殺人と呼べぬ手口——偶然を幾重にも積み重ね、必然へと変えてゆく犯罪の技法である。「プロバビリティーの犯罪」と呼ばれるそれは、犯人の影をどこにも残さない。疑いは霧のように散り、死だけが静かに残る。

江戸川乱歩が大正十四年に書き記したこの一篇は、探偵小説の衣を纏いながら、その実、人間の暗欲を解剖する標本箱に近い。谷崎潤一郎の犯罪美学から蒸留された毒が、乱歩の筆によって「日常」という名の棚に並べられた。

物語の末尾には、語り手の告白すべてを虚構へと反転させる一手が仕掛けられている。しかしその逆転が、かえって不安を深める。嘘ならば安心できるはずなのに——読み終えた者は、なぜか部屋の壁が少しだけ赤みを帯びて見えると囁く。

今もその噂は、古い文庫本の余白や、深夜の読書会でひそかに流れている。赤い部屋とは場所ではなく、告白を聞いてしまった者の内側に灯る、消えない色なのかもしれない。

密室・告白・知的な悪意・大正の翳り・静謐な戦慄 江戸川乱歩大正怪談猟奇クラブプロバビリティーの犯罪密室告白どんでん返し新青年
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出典: 赤い部屋 — ウィキペディア(ja.wikipedia.org)。 当サイトが翻案・再構成。ライセンス CC BY-SA 4.0.