これはですね、仙台のほうで聞いた話です。
確かめた訳じゃありませんが、どうも本当にある場所の話らしくて、知ってる人は知ってる、でも誰も詳しく語ろうとしない、そういう類の話でして。
仙台市の太白区に、「太白山第二橋」という橋があるそうです。
名前だけ聞くと、別にどうってことない。川に架かった普通の橋でしょう、と思いますよね。ところがこの橋、渡り切った先に、道がないんだそうです。
道が……ない。
橋があって、欄干があって、コンクリートがあって、ちゃんと車が通れるような幅もある。でも渡り終えたその瞬間、アスファルトがぷつりと途切れて、そこから先はただ、鬱蒼とした森が広がっているだけなんだと。
聞いた人が言ってたんですけどね。初めてそこへ行ったとき、夕方の少し遅い時間だったそうで。細い山道を車で走って、橋の手前で一度止まったらしいんです。なんとなく、すぐ渡りたくなかったって。
橋の上に降り立って、ゆっくり歩いてみた。足の下でコンクリートが鈍く響く。欄干に手をついたら、ひんやりと冷たくて、夕方にしては妙に温度が低かったと言ってました。川の音もしない。風もほとんどない。なのに、橋の上だけ、妙にしんとしていたって。
で、渡り切って。
目の前に、森がある。
舗装が終わっている。文字通り、ぶつりと。端がきれいに切れているわけでもなく、かといって崩れているわけでもなく、ただ、そこで終わっている。まるで最初からそういう設計だったみたいに。
踏み込もうと思って、一歩、足を出したそうです。そうしたら。
落ち葉の匂いがしたって。
……秋でも、冬でもない、初夏の話です。
青葉がまだ青々していた時期に、腐葉土の、じっとり湿った、秋の底みたいな匂いが、森の中からひゅっと出てきた。鼻の奥に貼り付くような、あの感じ。思わず後ずさりしたと言ってました。体が先に動いたって。
後から調べてみたら、もともとこの先に道路を延ばす計画があったらしくて、なんかの事情で工事が止まってそのまま、という話が出てきたそうです。何十年もそのままだと。
でも、その「なんかの事情」が何だったのか、それはどこにも書いていなかったって。
工事を止めた理由。誰も語らない理由。
そして、橋の完成だけが、妙にきれいな形で残っている理由。
……その人が気になったのはですね、帰り道のことなんです。
橋を戻って、車に乗って、しばらく走ったところで、なんとなく後ろが気になって、バックミラーを見た。
橋が、まだ見えた。
森の入り口に、橋だけが立っていた。
その橋の、向こう側の端に。
誰か、立っていたって。