これは……確かなことは申せませぬ。ただ、耳に入ってきたことを、そのままお伝えするだけにございます。
名古屋の東山動植物園に、一般の方が今は入れぬ道があると聞いております。園内の駐車場へと続く、くねくねと曲がりくねった細い道でございます。いつ頃から封鎖されたのか、正確なところはわかりかねますが……もともとは普通の車も通れたのだと、そう言われております。
聞いた話では、夜になるとその道に若い者たちが集まっておったそうで。カーブが連なる地形を利用して、車を滑らせる走りの練習をしておったとか。笑い声と排気の匂いが、深夜の木立の間にこだましていたと、そう語る方もいらっしゃいました。
ただ……何度か、死んだのだそうです。
曲がり切れなかったのか、あるいは別の何かがあったのか、そこまでは存じません。若い者が、あの道で命を落とした。それだけは、どこで聞いても変わらない部分でございます。
それ以来、という言い方をする方が多うございます。
ある男性のことを、知り合いから聞きました。名前は存じませぬ。ただ、二十代の頃に友人と連れ立って、封鎖される少し前のあの駐車場へ行ったことがある、と話していたそうで。
夏の終わりの夜だったと言います。虫の声もなく、妙に静かな夜だったと。駐車場に車を止めて、ふと助手席の窓を見たとき……窓ガラスに、人の顔が映っていたのだそうです。
最初は自分の顔が反射しているのだと思った。でも、違った。
その顔は、ゆっくりと、こちらを向いていた。
車内から外を見ているのではなく、外から中を覗き込んでいる顔だった、と。口が、少し開いていたと言います。何かを言いかけているような、あるいはもう言葉を持たないような、そういう開き方だったと……そう聞きました。
男性は声も出なかったと言っておったそうです。ただ体が勝手に動いて、アクセルを踏んだ。タイヤが砂利を弾く音だけが、やたらと大きく響いたと。
友人はその間、ずっと前を向いたまま固まっていた。後で聞いたら、友人の方には何も見えていなかったと。ただ、男性が急発進する直前、後部座席のあたりから生温かい息のようなものを感じた、とだけ言っておったそうで。
それが誰の顔だったのか、何を言いかけていたのか、今もわからないままだと聞いております。
あの道が封鎖されたのは、心霊現象があまりに続いたからだという方もいれば、単に安全上の理由だという方もいて、本当のことはわかりかねます。今は管理車両しか通れぬようになっておるとか。
ただ、一つだけ気になることがございます。
あの駐車場は、今も使われているのだそうです。園の管理用に。昼間は職員の方が普通に車を止めて、何事もなく仕事をされているとか。
……夜は、誰も止まらないようにしているのだと、そう聞きました。
なぜそうしているのかは、聞いた方も教えてもらえなかったそうで。
ただ、あの窓ガラスの話を思うとき、私はいつも同じことを考えてしまいます。
あの顔は、何を言おうとしていたのだろう、と。