八丈島――流人の果て、霧の底
はちじょうじま
本土から287キロ、黒潮の向こうに浮かぶこの島には、帰れなかった者たちの声がまだ満ちている。
東京から飛行機で一時間も経たぬうちに辿り着くというのに、八丈島は不思議なほど「遠さ」の匂いを失わない。瓢箪型の輪郭を持つその地は、東西ふたつの火山が溶け合って生まれた。地の底はいまも眠ってはいない。
江戸幕府はこの島を流刑地として用いた。宇喜多秀家をはじめ、数多の罪人・謀反人・厄介者がここへ送られ、多くは二度と本土の土を踏まなかった。島の土壌には、帰還を望んだまま朽ちた者たちの念が層をなしているとも語られる。
西山は記録に残るだけで十六世紀から十七世紀にかけて幾度も噴火し、海底から新たな島影を浮かび上がらせたこともある。大地そのものが周期的に牙を剥く島で、流人たちは逃げ場もなく噴煙と波浪に挟まれた。島に根ざした怪異の多くは、この「閉じ込められた恐怖」を土台にしている。
島に伝わる口承には、霧の夜に浜辺で列をなして歩く人影の話がある。顔はなく、足音もなく、ただ沖の方角へ向かって歩き続けるという。地元の古老は「あれは渡れなかった者たちが、今夜こそ帰ろうとしているだけだ」と静かに語ったと伝わる。
リゾート地として整備された現在も、島の奥部、東山カルデラの縁近くには観光客が近づきたがらない区域があるという。理由を問われた島民は多くを語らず、ただ「霧が深い日は行かないほうがいい」とだけ答えるそうだ。
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Source: 八丈島 — Wikipedia (ja.wikipedia.org). Adapted and reconstructed by this site. License CC BY-SA 4.0.